わたし、ガンです 頼藤和寛 文春新書
昨年、両親が相次いでガンで亡くなった。日本人の3人に１人はガンで死んでいるということを考え合わせれば、この先自分もガンになる可能性は高いと思わされる。しかし、身近な問題ではあっても、できることならこの話題から避けたいという思いは強い。
著者は本書の発刊とともに直腸がんで５３歳の生涯を終えた。まさに、自分と同年だ。精神科医である著者も、自らのガンが発見されるまで同じようにこの問題を避けようとしていたという。
ガンという病に伴う特殊性がある。脳溢血や心臓病のように発病から死あるいは快復までの過程が単純ではない。ガンは多様であり、しかもその勝負の時間は他の病気に比べれば意外と長く多くの場合、死という敗北で終わることがほとんどだ。
正に死刑確定囚がその執行を待つようなところがあるし、偶にではあるが、死刑が減刑される可能性もある。ガン患者には希望と絶望が同時に与えられる。
本書は実に複雑なガンという病に突然とらわれた著者が、絶望でも、諦めでも、あるいは希望でもなく、淡々と自分の価値観、死生観、ガン医療の現実を述べたものだ。巷の「ガン関連」本とは一味ちがう「ガン体験記」であり、その内容には同年代の所為なのだろうか大いに共感を覚えた。
戦中派にとっての死生観の発露が戦争であったように、現代に生きる我々にとっては人生観、死生観の発露はガンという病かもしれない。
終章近く著者が自らの人生を、自分にとっては「なにもない」宇宙誕生以来の100億年と、これからの自分にとっては「なにもない」宇宙の未来100億年にはさまれたものであるから、「どれだけ生きたか」は問題にならず、「どのように生きたか」が多少問題になる程度であると語っている。その死生観は、まさに我が世代の多くが共感を覚えると思う。
しかし、「どのように生きたか」でさえ迷っている現実を思う時に、再び我が人生観、死生観の思索に迷い込んでしまった。
（01年4月発行）