人口ピラミッドがひっくり返るとき　　P・ウォレス　草思社　　　　

人口問題というとほんの少し前には地球人口の爆発的増加が未来社会を破壊するのではということが最大の関心事であり、「世界人口会議」といったものも、正にその一点において論議が行われていたように記憶する。

しかし、今や人口問題とは「少子高齢化」という恐怖のシナリオに集約されて「人口爆発」は忘れ去られてしまった観がある。

人口動態予測ほど、当てやすい予測もないと思うのだが、不思議なほどに人口問題の予測はあたらないのが可笑しい。

本書が指摘する人口問題は、世界的な少子高齢化、特にベビーブーマー世代の高齢化とともに起きる人口統計のピラミッドのいびつな変形による社会的影響である。

人口ピラミッドが逆ピラミッド型になる、あるいは人口比率のもっとも高い世代が高齢化するということの社会的な影響は、これまた予測の範疇ではあるが、既に、欧州や日本ではその予兆が現れてきていると本書は言う。

ビジネス、起業、就職、住宅購入、年金、投資においては、人口ピラミッドの逆転現象が深刻な影響を及ぼしはじめており、日本における90年代の不況、土地の値下がり、終身雇用制の崩壊などは、実は人口構成の変化が遠因であると本書は指摘している。

確かに、思い当たる節も多いのだが、何時もの人口問題に関する書物と同じで「本当にそういえるのだろうか」との疑問をもたないではない。何しろ、人口問題は難しい。

労働力人口比率が減少する先進国と、比較的健全な人口ピラミッドを維持する発展途上地域の力関係が将来的に世界の経済勢力地図をどのように塗り替えていくかについても本書は大胆に予測している。

これによると、日本の将来はどうも明るくはなさそうだ。しかし、はたしてそうか。こればかりは余り鵜呑みにもできない。

何れにせよ、本書は正にベビーブーマーである我々の世代が、今後の社会変化にどう備えるべきかについての数々の問題提起とその解決のヒントを与えてくれる。

（01年6月発行）