失敗の本質　　　　　　戸部良一　他　　　中公文庫　　　　

日米開戦当初から日本軍にはこの戦争のはっきりとした目標、終結のシナリオがなかったと言われている。

一、二年華々しく戦うという漠然とした展望はあっても、その後の明確なシナリオはなく、まあ、どうにかなるだろうといった考えが支配的であったといわれるが、それでも尚、行きがかり上開戦に突き進んでしまった。

個々の作戦を見ても、これと似たようなことがいえるし、又、作戦の目的や目標が明確ではない、あるいは二重目的であったとか、陸軍と海軍、現地軍と参謀本部の思惑の違いが解消されないままに作戦が実行されてしまったという失敗が各作戦にみられる。

このように第二次大戦における日本の敗因を分析してみると、負けるべくして負けたともいえる日本軍のさまざまな組織的欠陥が浮かび上がってくる。

本書は、ノモンハン事件、ミッドウェー海戦、ガダルカナル作戦、インパール作戦、レイテ海戦、沖縄戦、という日本が大敗を喫した個別の作戦において日本軍はどのような意思決定のもとに、いかに行動したか、又、それらの作戦において悲惨なまでの大敗を喫した原因は何かを分析したものだ。

84年に上梓された当初より話題になったが、それは、この日本軍の犯した失敗とその原因が、実は現在の日本社会の持つ共通の組織的欠陥にも繋がっている点が多いからだ。

本書では日本軍と米軍のそれぞれの作戦時における対比を行っているが、その対比は経済敗戦ともいわれた近年の日本経済と米国経済の対比ともかなり相似していることに気付く。

要約すると、日本軍の失敗は、作戦における目的が不明確であったこと、戦略思考に長期的ビジョンを欠いていたこと、組織運営が属人的、情緒的な部分が強かったことなどがあげられる。

それらの帰結として合理的であるべき作戦において一か八かの賭けの要素や、精神論が入り込み、しかも、展望を欠いたままに「やればどうにかなる」と突き進んでしまうことになったのだが、これは、本書に取り上げられた6つの作戦ばかりではなく、第二次大戦全体に対しても言えることであろう。

日本社会は、失敗の分析を怠り、失敗から学ぼうとせず、又、失敗の責任が問われないという日本軍の組織的体質を、今も引きずってはいないだろうか。

（91年8月発行）