起死再生 渡辺一雄 廣済堂文庫
著者はかつて大丸百貨店に勤め、当時内部告発的小説を発表した後、部長から主任への降格人事を経験し会社を辞めたという特異な経歴をもつ。
そのような経験から、以後発表する小説は企業の内幕物、リストラによるサラリーマンの悲哀といったテーマが主である。
本編も、歴年の経営の失敗から外国人社長を迎え大規模なリストラが渦巻く自動車会社を舞台に、その波に翻弄されるサラリーマン一家を主人公にしている。
非情なリストラの現場、騙し騙されの経営陣の主導権争いといった展開ではじまる。しかし、その内に悪徳総会屋弁護士、有名デパートでの次期社長を廻る内紛、少年非行の問題とテーマが広がりすぎて、結局、小説としてはまとまりのないものになってしまい、個々の書かれている題材の重要性が希薄になってしまっている。
明らかにニッサンとゴーンさんをモデルにした部分にしぼり、ゴーン改革の内幕、又、改革という美名の中で行われているリストラを、ニッサンの数万人の従業員やその家族達が実際にはどのように受け取っているのかに絞って深みをつけるという展開にするか、或いは、軽い読み物としての勧善懲悪企業小説にするかの的がしぼられていないだけに、駄作の感を免れない。
（01年7月発行）