集団的自衛権 佐瀬昌盛 PHP新書
国家が国家でありつづけるためには、国民の生命財産を守ることは必須である。従って自衛権は万国に認められた基礎的な権利ではある。さて、戦争放棄をうたった日本国憲法によれば、他国からの攻撃にたいして自衛を行うことは、正々堂々の権利としてみとめられているだろうか。
大勢は決したとはいうものの、長く自衛隊の存在そのものについても憲法違反であると言う論議があり、いまだもって憲法論争ではこのような説が消えたわけではない。しからば、日本国憲法は国家としての存立をも否定しているのだろうか。一見、あまりにも無意味な論議のように思えるものの、このような神学論争は延々とつづいている。
まして、集団的自衛権となれば、「国際法上､保有しているが､憲法上､行使できない」という珍妙な政府見解が堂々と闊歩している。
この集団的自衛権の解釈の迷走により、わが国の安全保障の基礎をなすべき法的根拠はあいまいなままである。
テロ特別法の国会論議でも明らかなように、わが国の防衛問題は、憲法9条の解釈及び、「集団的自衛権」に関する政府見解現実の矛盾の中に迷走しつづけている。
本書では、日米安保条約､70年安保騒動､新防衛ガイドラインをめぐる国会論戦などを検証し、集団的自衛権について、なぜこのような珍妙な政府解釈が成り立っていったかを、史実に基づいて検証する。
又、関係者の国会の内外での発言などを引くことによって、「集団的自衛権」問題が現在の混沌に追い詰められた経緯に迫っている。
集団的自衛権の政府解釈は、政府、そしてマスコミなどによる｢日本的バイアス｣がこのようないびつなものにしたというのが、著者の指摘だ。
神学論争にそろそろ終止符をうち、「普通の国」として国際社会にあるためにも、「集団的自衛権」問題の整理が必要であろう。
（01年5月発行）