数学嫌いな人のための数学　　　　小室直樹　　　　東洋経済　　　

数学を理解する為には数学の論理構成を理解することが必要だ。というよりも数学で使われている論理が理解できれば数学は簡単だと著者はいう。

本書は表題から想像されるような、数式や定理の解説書ではなく、数学における論理構成の仕組み、いわば数学原論の分かりやすい解説である。

アリストテレスによって形作られた形式論理学、ガウスの大定理、背理法、帰納法、必要十分条件、対偶、とは何かがしめされる。

本書における著者の目的は、このようにして数学の原論をまず解説することによって、近代資本主義そのものと、経済原論が数学の論理そのものであることを示すことだ。

後半では経済史的な趣となり、新古典派、ケインズ経済学から、リカード、ワルサスなどの理論と数学原論の関わりが経済史的に解説される。

著者によれば数学の論理こそが資本主義を育くみ、数学の論理展開を理解することによってケインズの一般理論も、古典派の自由競争理論の矛盾も理解できるという。数式はほとんど出てこず、「小室節」による単純明快な解説は確かに「数学嫌い」にとってもとっつき易い。

読後、数学原論が若干理解でき、ケインズと古典派の経済理論、リカード、ワルサスを復習できたような気になれる。

但し、「セイの法則」と「有効需要の法則」により経済を一刀両断するいつもの小室節と、現実の経済の実体との乖離を思うとき、やはり、数学あるいは経済の原論の「実用性」にはいささか疑問をもたないではないけれど。

（01年10月発行）