プリズンホテル（春）　浅田次郎　　　　集英社文庫　　　　　

浅田次郎の「プリズンホテル」シリーズは、全４巻だが、3巻までは読んだとなると、どうしても最終巻を読みたくなる。このシリーズのエンターテイメント性が優れているからだろう。

という訳で、1月に第4巻(春)が刊行されたので早速読んでみた。期待にたがわず「面白い」のは前3巻と同じで、しかもこのシリーズ全体が一つの物語であったという結末がついており、まさに大団円の巻となっている。

この最終巻のあとがきで著者自身がこの作品を極めて短時日に書き上げたこと、しかもその執筆と同時並行で「蒼穹の昴」などの500枚とか700枚といった作品を書いていたと述べているが、著者の作家としての超人的な才能に驚嘆するばかりだ。

やくざの親分が、刺青を入れたやくざや懲役を終えたばかりといった「訳あり」の客がくつろげるホテルを経営し、その従業員にも組員やフィリッピンからの出稼ぎに混じって誠実すぎるがゆえに一流ホテルの出世コースから外れた支配人やら料理長がいたりとの設定で、様々なエピソードが描かれる。

今回も、52年もの懲役を終えたばかりの老侠客、役者の道を目指す人気スターの隠し子親娘、文芸大賞受賞を目前にした作家とその取り巻きの出版社文芸部員達と、登場人物は多士済済。

放免祝いのチンチロリンで、並み居る現役の大親分達が、この老侠客とその連れの素人に、こてんぱんに負ける場面などは抱腹絶倒だ。

前回までに、幼い時に自分を捨てて出奔した母親に対する母恋がゆえに、女性に対してサディスティックな行動をとってしまう流行作家が、この大団円で、自分を育ててくれた養母、自分を捨てた実母、妻、そしてその妻の連れ子の娘に対する、優しさを素直に表現できるようになるというハッピーエンドも中々上手いものだ。

エンターテイメントとしての小説として十分楽しめるシリーズだった。

（01年11月発行）