我らが隣人の犯罪　　　宮部みゆき　　　　　文春文庫　　　　　　

エンターテイメントとしての小説という分野がある。いたずらにエンターテイメント性を嫌い自己満足に陥っている純文学系とは対照的に「面白い」「上手い」と思わせることを狙っているのだから、随分と違った世界だ。

しかし、中には松本清張や、近くでは浅田次郎のように、かなり純文学系にせまる内容をもったエンターテイメント小説もないではない。

そんな比較をすると、宮部みゆきは未だ、エンターテイメントの世界に留まっているのだろうが、確かにその面白さにおいては中々の技量といえるだろう。

本書は宮部みゆきのデビュー作となった表題作を含め、初期の5作の短編を納めたものだ。

推理小説というエンターテイメントの分野であり、暗さを感じさせないいわゆる「明るい推理小説」という、軽い読物としてどの短編も良く出来ている。

プロットの組立ても器用だし、最近、「模倣犯」を始めとして、長編ベストセラーを連発している著者の才能の片鱗をうかがわせる。

ただし、エンターテイメント小説の宿命なのか、読み終わったはしから、内容を忘れてしまうほどにいわゆる「軽い読物」であることからはのがれられない。

限られた時間しかない自分の読書のジャンルには、この作家の小説は入ってこないように思う。

（93年1月発行）