人生最後の時間 木原武一 PHP文庫
人は生まれた時から死に向かっているとも言われている。そうであるならば、誰しも良い最期を迎えたいと思うものではあるが、しかし生きるということは、良い死に方をするためにあるのではなく、良い生き方の結果として良い死に方があれば、それでよいのではないだろうか。
人の最期の迎え方は実に様々である。古今東西の様々な人々がどのような最期の時期を送ったかが本書では述べられており、又、著者自身がそのような中で死というものをどのように考え、又どのような最期を迎えたいと考えているのかが随筆として描かれている。
人の最期の時期が短いにせよ、長い時間であるにせよ、その死の瞬間ではなく、それまでの行き方こそが人生の目的であるという著者の主張は、冒頭で述べた我が死生観とも共通するものであり興味深く読んだ。
本書では実に様々な人々の「最期の時期」が描かれているが、それが、それぞれが「いかに生きたか」のまさに要約となっている。
自らが寝返りも打つことも出来ず苦痛に苦しめられるというまさに拷問のような病床生活送った正岡子規。死というものを「知」の成就と捉えてそれに臨んだソクラテス、セネカ。当時としては超高齢にありながらその生活の為、そして自らの芸術への探究心の為に超人的な創作活動を死の直前まで送った滝沢馬琴、葛飾北斎。西行、鴨長明、吉田兼好などの死生観など、本書に取り上げられた素材の範囲の広さは、とりもなおさず著者の見識の広さからなるものである。
死を人生の終着点と考えるのではなく、生きている今の瞬間を大切にすることこそが良き最期を迎えていることにほかならないことを再確認した。
（02年2月発行）