活学としての東洋思想 安岡正篤 PHP文庫
安岡正篤は昭和58年に没したが、その東洋思想に関する類まれな碩学もあって、吉田茂から中曽根康弘にいたる戦後歴代の首相が師と仰いだといわれる。又、「平成」の元号も安岡正篤の考案によるといわれている。
本書は昭和40年に発行された安岡の東洋思想講義23篇を集めたものの再版である。先ず、その内容の深さと重厚さにはおどろかされる。言及されているのは、東洋思想の根本であるところの「活学」の考え方からはじまり、儒教、禅、老荘思想、「大学」、「史記」、あるいは人相学といった分野まで実に幅広い。
「学問をする」、あるいは「知る」という行為がそれのみが目的化されてしまっては無意味であり、「知行合一」という言葉にあるように、知識の集積は自己完成のための努力でなければいけないというのが、「活学」の考え方だ。
この考え方は、2年前より我がパソコンのスクリーンセーバーに入れている佐藤一斎が「言志四録」で述べた「若くして学べば壮にして為すあり。壮にして学べば老いて衰えず。老いて学べば死して朽ちず。」と同一のものであり、我が意を得たりと思う。
知識を得る、学問をするのはただの「物知り」になるのではなく生涯をかけての自己完成のためであるという安岡正篤の気迫は、明治生まれの多くの学者が持っていたものなのだろう。
それにしても、本書にある安岡の碩学ぶりには驚かされる。東洋思想の幅の広さだけではなく、西洋思想や詩文にまで通暁しており、政治、経済いかにあるべきかの現実社会の規範を説く各論には、今現在の政治経済のことを語っているかの普遍性がある。
本書で紹介された警句で最も好きなものは
「それ学は、通のためにあらざるなり。窮してくるしまず、憂へてこころ衰えざるが為なり、禍福終始を知って惑はざるがためなり」 筍子
学問をすることは、単に知識を得るためではなく、生きる力を得るためであるということだ。正に至言であろう。
（02年2月発行）