ウメ子 阿川佐和子 小学館文庫
妹尾河童の「少年H」や阿久悠の「ラジオ」といった少年時代を思い出して書いたノスタルジックな物語も面白いが、女の子の幼い頃の思い出の物語というのも中々面白い。
男の子の思い出と同じところもあり、又、男の子と全然違う感じ方を女の子がしていたことを知ったりして、これまた、ノスタルジックな気分になれる「ちびまる子ちゃん」という漫画が出始めたころ、娘と争って読んだことを思い出す。共感を覚える部分があると同時に、女の子達のものの捉え方に新鮮さを覚え、何だか謎解きを見る様でもあり、大いに楽しんだものだ。
「ウメ子」は、作者が幼稚園生だったころの思い出をもとに描いた物語であるが、「ちびまる子」同様に、幼い女の子のあどけない目でみた世界はこんな風になるのかと感じさせる楽しい物語だ。物語は、幼稚園の年中さんである「みよ」ちゃんからみた、友達、ウメ子との交流の回想の形をとっている。
みよちゃんの通う幼稚園に、「ウメ子」という名の女の子が転園してくる。奇抜な服装、まったく物怖じしないはっきりとした性格のウメ子はみよちゃんにはとても気になる存在だ。ジャングルジムのてっぺんに登ることをウメ子に教えてもらったみよちゃんはウメ子と友達になって行く。
行方不明だというウメ子の父親の居所を、父親の友達の紙芝居屋の源さんから聞き出した二人は、家出という大冒険をして父親探しの旅に出る。そして、ウメ子はサーカスで働く父親との再会を果たすのだがーーーー といった具合に「少年少女冒険物語」といった要素もあり、思わずこの物語に引き込まれる。
エッセーを中心にして活躍している著者はじめて取り組んだ小説だとのことだが、この人のこの分野での才能の可能性を大いに感じさせる作品だ。
（02年3月発行）