海外リタイア生活術 戸田智弘 平凡社新書
90年代初めの政府主導のシルバーコロンビア計画は、バブルの崩壊とともに頓挫した感があるが、今でもリタイアしたら海外で生活をしてみたいという人は多い。
気候の良さ、物価の安さ、ゆったりとした時間の流れ、といった日本で求められないものを海外に求め、その地で快適な老後を過ごせたらという思いを募らせている人は寧ろ増えているといえるようだ。
本書は、そのような海外生活を考える人々への手引書である。気候、治安、文化的生活の快適さのある、オーストラリア、ハワイ、カナダといった欧米のケース、あるいは物価の安い、フィリピン、タイといったアジアのケース、又、学び、教えるといった「生きがい」を求める中国などのケースについて、あるいは一寸変わってはいるがフィジー、コスタリカ、スペインなどの世界各地におけるリタイア生活についての解説である。
それぞれの地域の長所、短所、あるいは医療制度、ビザ、物価の比較などが詳しく述べられており、これらをみているだけでも旅行書を読むように結構面白い。
海外リタイア生活といっても、生活の拠を完全に海外に移してしまう「移住」、海外と日本を行ったり来たりする「渡り鳥」、一年の内に3ヶ月から半年を海外で暮らす「長期滞在」とがあるが、現実に海外生活をしている人たちの割合はそれぞれ1:10:100ぐらいになるという。
著者も推薦するのは長期滞在型であり、これを著者は「マルチハビテーション生活」と呼んでいる。
60歳で引退したとしても平均寿命からすれば、老後の生活とは未だ、それから20年は続く。その貴重な20年の過ごし方として、海外と日本とに生活基盤を置く「マルチハビテーション生活」というのも、確かに一考に価する生き方であると思う。
（01年11月発行）