英国大蔵省から見た日本　　　　木原誠二　　　文春新書　　　　　　

日本は明治維新以来、さまざまな面で英国を手本としてきた。最近の構造改革においても、英国との比較で語られることも極めて多い。

しかし、事象としての日英比較は盛んでも、その違いがどのような基本的な違いによって生じているのかにまで掘り下げて分析するものを左程多くはない。

本書は数多い日英比較論の中では出色のものである。それは、単なる現象としての日英比較ではなく、日英の社会基盤、歴史の違いによってこういった差異が生じることを鋭く分析しているからだ。

著者は大蔵省に入省後2度英国に派遣された。2度目は99年から約2年間英国大蔵省に派遣されたという。正に若手エリート官僚の代表である。

「議会と内閣」の関係「政と官の関係」などで最近お手本として紹介されることの多い英国だが、同じ「議院内閣制」といわれながら、どうも日本と英国では制度や、その運用には大きな違いがあるようだ。

そんな、日英の違いを実地体験の中から分析した本書は、正に時宜を得ているともいえる。要は、形は移入してもその根本になる精神、歴史といったものまでは移入できなかった日本が陥りやすい陥穽ということができるかも。

英国の制度に対する柔軟さが、実はコモンローの精神から導かれたものであり、憲法を基本に置く日米などにおける硬直性とは根本的にことなるという冒頭の分析からぐいぐいと引き込まれる。

官僚が「国民全体の奉仕者」であろうとする日本では、それが故に大臣を却って軽視しがちだが、公務員は「大臣への奉仕者」と考えている英国の方が、責任の分担がはっきりするといった指摘なども「目からウロコ」の感があるが、やはり、日本を見るには外国の目で見てみることが大切ということを裏付けてもいる。

英国流の保守主義と言われるものが、実は改革とか改善に対しては最も柔軟であるとの指摘なども大いに納得させられた。

（02年2月発行）