夜明け前に会いたい 唯川恵 新潮文庫
おじさんが何かの間違いで少女マンガを読まされたという妙な違和感だ。正に、若い夢見る女性が好む恋愛物語の線を狙ったのだろうし、そういう読者層もいないことはないとは思うし、プロットなどを抜きにしたストーリー展開の技巧の面では、この作家の上手さも認めるが、まあ、この手の恋愛物が肌に合う人はそんなに多くはないのではないだろうか。
金沢の芸妓の私生児として育った主人公、希和子が惹かれるのは加賀友禅の新進作家、瀬尾である。瀬尾は大御所の友禅作家、烏水の後継者ともいわれるほどの才能に恵まれているが、老舗の呉服屋の女将である蒔子との不倫関係にある。希和子は幼馴染の恒のポロポーズを受けるが、それを知った恒を慕う若手の芸妓のみづ枝は、手首を切って自殺を図る。―――といった具合で、まあ、女性好みと思わせる恋愛物語が繰り広げられ、希和子の実の父はだれであるかが物語の後半で明らかになったりと、テレビドラマ向きの展開となる。
読んでいる最中の違和感がそのまま最後まで続き、読み終わっても「だからどうだ」と思ってしまう。おじさんを感心させようと思って書いた訳でもないだろうから、当然だとは思うが。少女雑誌の連載だったのだろうとは思うが、この程度では少女たちも納得しないのではないだろうか。
この作家の直木賞受賞作「肩ごしの恋人」が面白かったので本屋でたまたま見つけたので読んでみたのだが、大失敗だった。
（00年6月発行）