連合赤軍「あさま山荘」事件 佐々淳行 文春文庫
連合赤軍による「あさま山荘事件」が起きたのは72年、今から30年前である。本書はあさま山荘事件の際に警視庁と長野県警の「全警察軍」ともいえる合同隊の指揮をとった著者が、事件後約25年を経て筆をとった詳細なドキュメントである。
本書を読んで、事件前後の新左翼運動、学生運動の高まりから、連合赤軍、などの極左テロへの暴走といった当時の世情を思い出すと、妙に懐かしい気分がしてしまうのは何故だろうか。日本全体がよきにつけ悪しきにつけ、異様にエネルギーに溢れていたのではないか、それに較べて、現在は余りにも覇気を失っているのではないかと思うからだろうか。
あさま山荘の攻防は、まさに戦争ともいえるものであった。しかし、この戦争を実際に戦ったのは、連合赤軍の５名の犯人たちと、警察軍であって、残りの国民は89%を記録した視聴率が示すように、テレビであたかも戦争映画を楽しむかのように、見ていたのだ。このあさま山荘事件から、戦争というものがお茶の間で見るものになっていったのではないだろうか。
今でこそ、連合赤軍に対する一般の評価は極左犯罪集団と定まってはいるが、事件の前後においては、彼等のシンパが一般にも多く、当時の社会党の代議士は、この犯人たちを賞賛したというエピソードが紹介されているが、考えてみると、未だに、北朝鮮を賛美し、権力イコール悪、といった教条主義の政党があることをかんがえれば、30年という歳月も、大きく時代を変えたとまではいえないかもしれない。
又、著者の子息の担任が「父親が警察と自衛隊に勤めている生徒は、罰として立っていなさい」と言ったというエピソードも、今の日教組も持ちつづけているメンタリティーとさほど変わったともおもえない。
30年前と現在の日本を対比しつつ読み進むといろいろと考えさせられる。
迫力に満ちた必読の書である。
（99年6月発行）