新・世界地図 福田和也 光文社
「真相はこうだ」といった調子で、世界情勢や政治情勢をいささかアジテーション風に一刀両断し、大胆な未来予測と「だから日本はこうこうしなければならない」といったご宣託で、一時人気のあった長谷川慶太郎とか竹村健一といった評論家の諸先生は今、どうしておられるのだろうか。割とワンパターンな未来予測が何年もやっているうちに、ハズレてばかりという結果に、読者が愛想をつかしてしまったのだろうか。
まあ、そんな意味合いもあるから、一刀両断の時事評論に、未来予測や「べき論」が加わる手法は、長持ちさせるのはなかなか難しい。あれだけ大評判だったフランシス・フクヤマの「歴史の終わり」やサミエル・ハンチントンの「文明の衝突」といった評論でさえ、だんだんと底が割れてきているぐらいなのだから。
本書の著者は、新手の長谷川慶太郎流の線を狙っているのだろうか。
9.11のテロは21世紀の世界がどうなっていくかの象徴的できごとであり、これは19世紀から20世紀への転換が20世紀初頭に戦われた第一次大戦によって方向づけられたのと同じだという、一刀両断的な分析が、まず提示される。
テロによって顕在化したイスラム諸国と西欧文明の対立を、地政学的、歴史的に分析してみせ、アフガン帰りの兵士達の置かれた絶望感が、過激な原理主義テロへ向かう必然性を説く。そして、国益という観点から世界各国は、この事態にどう対処しているかがのべられ、この情勢の行き着く近未来の世界地図のご宣託がある。さて、こういった情勢の中で日本はどうあるべきかの、ややナショナリスティックな提言がある。この種の情報にはうとい多くの読者にとっては、新鮮に感じられるかもしれない。
本書でカバーしているのは、世界のパワーポリティクス分析と、それらの分析にもとづく今後の日本の進路といったところだが、この面でも、かつての長谷川流の何となくジャーナリスティックな語り口に、結構人気は出るかもしれない。
ただし、イスラエル首相の名前の間違いがあったり（115頁）、その他、幾つかの明らかな誤記が気になるし、客観性があまり感じられない主観的な分析が多いために、本書全体の信憑性にいささか疑問符がつくかもしれない。
情勢分析も、独創性があるようにも見えるが、さまざまな評論家など（石原慎太郎、など）の論点の集約にも思えてしまうのはなぜだろうか。
（02年1月発行）