仕組まれた9.11　　　　田中宇　　　PHP研究所　　　　　　

太平洋戦争の緒戦、真珠湾攻撃は実は米国によって巧妙に仕組まれた罠に日本がはめられたものだとか、湾岸戦争も石油利権確保のために米国がサダム・フセインにわざとあやまったサインを出して起こさせたものだ、といった米国の政治陰謀説というのは、常に人気のでる週刊誌ネタである。

ケネディーの暗殺の真相だとか、果ては宇宙人の遺体をNASAが隠しているといった陰謀話というのは、なぜこんなにも好まれるのだろうか。

それは、やはりそのような陰謀話が、さもありなんと思わせるだけのアメリカの広大さ、権力の圧倒的な強さにもよるのではないだろうか。

更には、そのような陰謀話のストーリーテラー達が、膨大な情報の中から、そのシナリオにそった情報だけを集めて、いいように組み立てるという、多少は詐術ともいえるような手法をつかうからではないだろうか。

本書のストーリーも、9.11のテロは、事前に米国政府は察知していたが、アフガンに侵攻し石油利権を確保する口実に使うために、米国が実行を黙認したものだという趣旨の、いわゆる9.11アメリカ陰謀説である。

そのような観点からみれば炭疸菌事件は米軍の自作自演であり、その真相究明も自らの自作自演を隠蔽するために、巧妙にカバーされているということになる。

そのような先ず結論ありきから、証拠集めをしていけば、確かに、炭疸菌の出所は米軍の研究所らしいことや、9.11事件追求のための捜査における、FBIやCIAの不可解な動きも、何だか陰謀臭く思えてくる。

本書の指摘するような事実が本当にあるのかもしれない。しかし、どうもこの手の陰謀説を聞いていると妙なスキャンダルジャーナリズムの臭いを感じてしまって、「インチキな本を読まされた」という気分になってくるのは、自分が素直ではない所為だからだろうか。

（02年4月発行）