沙髙樓綺譚 浅田次郎 徳間書店
南青山の高層ビルの最上階に選ばれた紳士淑女が集う「沙髙樓」という秘密のサロンがある。この沙髙樓では、参加者が他言無用の条件で、自らのとっておきの秘密の話しを語る。このような設定で次々と繰り広げられる「現代百物語」だ。恐らくこの沙髙樓綺譚はシリーズとなって続くのだとおもうが、本書にはまず5つの綺譚がおさめられている。
それぞれが、ストーリテラー浅田次郎の面目躍如の物語で、ぐいぐいと引き込まれてしまう。
「小鍛冶」は、国宝級の銘刀の「写し」を打ち出す神がかり的な才能をもちながら、世に出ることのない名刀工の話し。
「糸電話」は、幼い時の初恋の男の子を、思いつづける女の悲しい情念の物語。
「立花新兵衛只今罷越候」は、池田屋騒動の階段落ち場面の撮影に現れた志士というSF調の物語。
「百年の庭」は、真の庭園とは100年の歳月をかけて漸く成し遂げられるのだが、その庭ができるまでに、人々のどんな思いと犠牲が集約されたかが語られる。人が庭園を作るとはいいながら、実はそれを作る人々は庭という主人の為に、生きてそして死んでいったのだという、綺譚とはいいながら妙にリアルな話しだ。
最後の「雨の夜の刺客」は今や大親分となったヤクザが語る若き日の逆縁、即ち親分殺しの顛末だ。
ストーリーの面白さもさることながら、それぞれの物語がもつ人間の執念とか、愚かさといったテーマには重みが感じられ、一気に読了してしまった。
（02年5月発行）