パレード 川上弘美 平凡社
本書は全体でも、わずか70ページ余りだが、文章部分はその又、何割か程度でしかない。洒落たイラストによって、一寸した絵本とも見えるほどのつくりだが、本書は作者が「センセイの鞄」の執筆過程において作った創作ノートのうちから、作品に活用しなかった部分を、一冊の本にしたものとのことで、「センセイの鞄」のサイド・ストーリーと名づけられている。
「センセイの鞄」を読んでいない人は、一つの絵本として楽しめるかもしれないが、もちろん、「センセイの鞄」を読んだ人を対象にしていることはあきらかだ。
ある夏の秩A老センセイ宅で、ツキコさんはセンセイ手作りのソーメンを食べて、うとうとと昼寝をする。そんな風景は、あの「センセイの鞄」に書かれていなかったが、「センセイの鞄」を読んだ人ならば、なるほど、きっとツキコさんとセンセイにはこんな休日の午後があったろうなと、容易に受け入れることができるだろう。
センセイとツキコさんは居酒屋以外のところでは、こんな風に時間を過ごしていたし、ツキコさんは幼い日の思い出の中から、こんな話をセンセイにしていただろうなと、尽きない二人への興味を満たしてくれる。
作者自身、あの物語を書き終えたあとも、二人のことを様々に考えると言う。そして、その思いが本書になったとのことだから、「センセイの鞄」の読者として、作者と同じ思いを抱いたことに、ちょっと嬉しくもなる。
「センセイの鞄」という傑作のアンコールに応えて描かれた、カーテンコールの小品と考えればよいだろう。
（02年5月発行）