続　百鬼園随筆　　　　内田百閒　　　　　新潮文庫　

内田百閒は昭和46年に81歳で没した。この「続　百鬼園随筆」が上梓されたのは昭和9年だというのだから、彼が44歳の時である。

この随筆集に収められた諸編は、早いものでは百閒が17歳ごろのものもあり、遅いものでも精々40歳代前半のものである。

解説で若合春侑氏も述べているが、百閒のイメージとはやはり、あの顔写真にみるちょっとしかめ面をした明治の老紳士のものであるだけに、若き日の百閒の随筆であると聞くと、ちょっと幻覚に見舞われたような戸惑いを感じる面はある。

それは、あの顔写真の百閒を彷彿させる既に完成された文章と、取り上げられた題材の若さとのズレによって生じるものなのかもしれない。

内容的には若き日に亡くした友への追悼、又、明治末期の岡山の様子等々、「百鬼園随筆」同様にこの随筆集も対象とされている題材は、実に多岐にわたるものだ。

明治時代の乞食や、按摩がどんなであったのかといったところなどは、風俗史資料としても価値あるものではないかとも思える。

若き日の百閒が見聞きしたことがこの随筆の題材になってはいるものの、それらを見る百閒の視点は、若い時も年取ってからも変わりがない。まさに、明治の気骨のある自由人のものである。その文章の飾らないながら巧みなところは、明治文化人の教養の高さを示すものといえるのではないだろうか。

百閒は若い時代に琴に興味をもち、検校や勾当（こうとう）という位の盲人に習っていた。それもあって盲人の知己が多いのだそうだが、それらの盲人を実に温かい目で観察している描写などは、おかし味と、哀愁がある。

「立腹帖」という一編では、ささいなことで腹を立てた、他人や自分を第三者的に観察しているのだが、その可笑しさたるや何だか落語なり、漫談を聞いているような趣さえある。

（02年5月発行）