老いてこそ人生 石原慎太郎 幻冬舎
若いということは素晴らしいことだという反語として、老いとは悲しむべき、あるいは忌むべきものだという考えがありはしないだろうか。
しかし、人は皆年をとれば老いて行くのであって、それは人生の充実の度合いを増して行く課程であり、老いとは意外と味わいのあるものだと言えないだろうか。
エネルギッシュな活躍で知られる作家であり、都知事である著者も当年とって70歳となるが、若き日々のエネルギーは徐々に衰えつつも、今、老いて行く自分をみつめ、人生、老いてこそその味が分かるのだという。
赤瀬川原平の「老人力」のように気負っている訳でもなく、又、水上勉や、北杜夫のような老いに対する諦観でもなく、素直に老いを語る著者の姿勢は、大いに好感がもてる。
もちろん、老いをより意義あるものにするためには、活力と健康を保つ努力を怠ってはならない。著者にとっての宿痾ともいえる腰痛といかに共生していけるようになったかを語ることによって、一病息災による健康管理を語り、又、人生の楽しみの一つとしての酒の嗜み方、又、家族の絆の大切さを語る。いつもの、著者ならではのわかり易い語りは、老いた人にも、これから老いに向かう人にも共感を呼ぶだろう。
「どんなドラマでも最後の幕が一番実があり感動的だ」と力づけられれば、これから来る、我が老いも又、楽しみになってくるではないか。
（02年7月発行）