詐欺師のすべて　　　　　久保博司　　　　　　文春文庫　　　　　

大型小型を含めて世の中には実にさまざまな詐欺が横行している。考えてみると、まともな経済の営みといわれているものと、犯罪である詐欺との境界線はそれほどはっきりしたものではない。

大手銀行と生保が組んで多くの被害者を出した変額保険などは、一種の大型詐欺といってよいのかもしれない。最近でも、ネット企業が多額の資金を集め、あっという間に破綻してしまった例や、エンロンやワールドコムをみていると、まさにスケールの大きな詐欺そのものだ。

それはともかく、本書で取り上げているのは、小は無銭飲食から、何兆円という規模のほら話のM資金詐欺など、いわゆる犯罪としての詐欺である。

実にさまざまな詐欺の手口があることにまず驚かされる。詐欺の実例、手口の詳細などを紹介し、又、詐欺師として「成功」するための鉄則や、詐欺師の心理学など、まさにタイトルの通り「詐欺師のすべて」が網羅されている。

常時、パクリ屋として活動しているものが2000人、その周辺でうごめいているものをあわせると5000人ほどが、パクリで生活しているといった話にもおどろかされる。

経済界でも重鎮といわれた大物が、いとも簡単にM資金詐欺にひっかかり数億の私財を失ってしまうのは一体どういう訳なのか。そこには、騙される方にも、騙す方にも実に面白い心理状況や、背景があることが分かる。

一度詐欺で捕まった人間は、又、何度でも詐欺を繰り返すことが多いが、詐欺師にとって、被害者を騙したときの優越感に、一種の快感を覚えるからだと聞くと妙に納得できたりする。

詐欺師の多くは「冷情性」という被害者に対して憐憫を感じたりしない冷酷さを持っている。さらには、ウソを見抜かれても平気で、必要とあればまぶた一つ動かさずに話を変えるが、普段は魅力的な人物が多いのだとか。そういえば、宗男さんも真紀子さんもそんなタイプという気がしないでもないが。

（02年7月発行）