韓国大統領列伝　　　池東旭　　　　中公新書　　　　　　　　　　

韓国の大統領の権限は極めて強い。その絶対権力者に近い地位についたのは、現在の金大中も含めて独立以来8人だ。

しかしその8人のうち、朴正熙は暗殺され、李承晩、尹フ善、崔圭夏の三人は任期途中でその地位を追われ、全斗煥、盧泰愚は退任後、不正を追求され入獄した。さらには前大統領の金泳三と、現大統領の金大中は、子弟の収賄、脱税などの不正により恥辱を浴びるに至っている。

何故、一国の最高権力者の地位にまで上り詰めた人間がその後、こうまで悲惨な末路を迎えることになるのだろうか。歴代韓国大統領の列伝はまさに彼らの劇的といってもよい激しい浮沈の物語だ。

ジャーナリストとしての著者の視点は、極めて大局的、公平でありしかも詳細なものだ。韓国の優秀なジャーナリズムの質の高さに感心させられる。しかし、韓国内では偏狭な反日ジャーナリズムや、センセーショナリズムが支配的であることとのアンバランスにいささか戸惑いを覚える。

日本の朝鮮支配から自力で脱したのではなく、日本の敗戦によって独立がいわば転がり込んできたという歴史に、この列伝に描かれた韓国大統領の特殊な権力抗争の原因が見えてくる。

大統領列伝が、まさにパラレルに韓国近代史の俯瞰となっており、又、韓国社会のさまざまな問題点を浮かび上がらせてくる。

後任大統領が前任者を無視し、前任者は後任者を徹底的に非難するという繰返しの中に実は韓国の社会構造の問題点が見えてくる。

著者の筆法は鋭く、韓国の歴代大統領が国益ではなく私益を優先してきたこと、激しい地域主義をむしろ政争の武器として各大統領があおってきたことへの指弾も厳しい。

著者の憂いは、政治権力闘争の手段として常に反日が唱えられ既に50数年が経とうとしており、次期大統領は、日本語を知らない反日教育で育った世代になり、益々、日韓の関係はギクシャクとしたものになって行くだろうと指摘している。

本書を金完燮の「親日派のための弁明」と合わせて読むことによって、色めがねでみない、すっきりとした近代韓国史を理解することができるかもしれない。

著者のような韓国の識者の活躍が日韓の関係健全化のためにも大いに期待される。

（02年7月発行）