オーイどこ行くの 山本夏彦 新潮文庫
平成3年から7年にかけて週刊新潮の「写真コラム」に掲載されたエッセー150編が収録されている。
このコラム、もう30年以上に亘って連載されているが、週刊新潮の顔といってもよいものだ。
世論におもねるわけでは勿論なく、かといってウケを狙っての頑固さを言い立てるわけでもない。この30年一貫した視点をもって世相を斬りつづけてきたこのコラムは、たまに週間新潮を読むときにはまず、最初に読むページだ。
早くも平成3年ごろに、今も盛んに言われつづけている銀行の問題点をつき、日本の自虐外交をつき、オリンピックだサッカーだと浮かれまくる世間を冷笑していた。当時なら単なる偏屈な評論と取られたかもしれないが、今になって読みかえせば、やはり世の中の方が浮ついていたのであって、著者の視点は当時からゆるぎなく冷静沈着で正しかったことがよくわかる。
多くの指摘になるほどとうなずかされるが、特に著者は大上段に振りかぶった「正義」の声に常に懐疑的な点には大いに共感を覚える。
慰安婦問題で韓国に謝罪せよというキャンペーンをはる朝日新聞が、ブッシュ大統領に広島への原爆投下をなんであやまる必要があるかといわれてぐうの音もでなかったというインチキかげんを突くなぞは、胸のすく思いもする。
又、この人の碩学な面も実に面白い。日本語の乱れ、家族関係の乱れを、大正デモクラシーに遡って語られると、なるほどそういうものかと納得させられる。
ことばが乱れ、家庭が乱れ、社会が乱れ、日本は一体「オーイどこ行くの」という訳だ。
（02年7月発行）