がんと向き合って　　　　　上野創　　　　晶文社　　　　　　

朝日新聞の若手記者である著者は26歳のときに睾丸にがんが発見される。あまりにも突然のがんの宣告であったが、事態は深刻なものであった。がんはその時点ですでに肺に広がっていたのだ。

まさに人生これからという時期に突然、死の恐怖に直面させられるという運命の残酷さに息を呑む。

かれはその事実をガールフレンドに告げた。手術までの数日の間に、その恋人からプロポーズを受け二人はただちに入籍をすませる。

それから長い彼の闘病の日々がはじまる。この経験を彼は新聞に連載したが、本書はその記事をもとに再構成されたものだ。若き新聞記者のがんとの戦いの記録は、実に率直に描かれており、それゆえに感動的で迫真なものとなっている。

睾丸の手術に次ぐ、過酷な化学療法の日々。おしよせる死との恐怖。そして束の間のがんへの勝利の後につづく２度の再発と3度の肺の手術。人生、これからという若者をおそう運命はなんとも胸がつまる。

人はいずれ死ぬものと分かっていても、特に20代でこのような運命にさらされた著者の、この病の理不尽さへの怒り、そして怖れといったものが実に率直に書かれている。

死というものは本人にとっては案外楽なものかもしれないと思うものの、自分の死が遺される者にとってどのような悲しみを与えるのだろうかと思い悩む若き夫の心情などには、多くの読者が共感を覚えるだろう。

そのような肉体的、精神的な苦しみの中から、著者が真に生きることの意味や喜びを理解して行く過程は感動的である。

幸いにして、現在、著者は職場復帰しているとのことだ。がんで苦しむ多くの人々や家族の先達として、尚一層のご活躍を期待する。

（02年7月発行）