ギャンブル人生論 阿佐田哲也 角川文庫
対人ゲーム、即ち相手の顔が見える勝負事、碁とか将棋は好きになれない。ただし、同じ対人ゲームでも、麻雀だけは一時期けっこうのめり込んだ経験がある。その理由の一つが、当時阿佐田哲也の「麻雀放浪記」なる、なんとも魅力的な小説を読んだ影響ではなかったかとも思う。
コロンブスの卵ではあるかもしれないが、今や巷に溢れる麻雀を題材とした小説やコミックは昭和40年代に、阿佐田哲也が「麻雀放浪記」を書くまでは、誰も思いつかなかった。
若い一時期には、プロの麻雀打ちでもあった阿佐田哲也が、このジャンルを築き、そして麻雀というかつては隠微な臭いもあった遊びを、いわゆるゲームとして陽の当たるところへとひっぱり出した功労者といってよいだろう。麻雀という博打を通して阿佐田哲也が語る人生観に魅力があったからこそ、麻雀のみならずギャンブルが陽の目を見たといってよいだろう。
本書の発行は83年となっているが、おそらくここに集められている短いエッセー調の書き物は、何かの月刊誌などに作者が70年代に書いたものであろう。
「麻雀放浪記」の創作の舞台裏、作者のギャンブル、すなわち博打というものに対する考え方、麻雀を通しての交遊録と、いささか雑多な内容となっているが、阿佐田哲也の小説、そしてその生き方に憧れをもつ、いわゆる阿佐田ファンにとっては、多分これでも良いのだろう。
博打とゲームは違う。阿佐田哲也はその両方においてプロであった。さらには本名の色川武大の名前で、いくつかの文学賞も受賞している、破天荒に見えながら、底知れぬ能力をもった魅力的な人物であったのだろう。
阿佐田哲也は惜しくも89年に60歳で逝去している。日本が元気だったころの、懐かしい雰囲気をもった作家であった。
（83年9月発行）