霞町物語 浅田次郎 講談社文庫
青山と麻布と六本木の台地に挟まれた谷間は、かつて霞町という地名であった。1951年生まれの著者が、育った土地であり、青春の日々をおくった町だ。
芸妓であった祖母を身請けして妻とした昔かたぎの祖父、その祖父の弟子であった父は入婿で、写真館の二代目をついでいる。
チンチン電車が走っていたこの町も変容し、主人公である著者の分身は高校生となって、パルスビートやムゲンにたむろしている。
このような舞台をバックに語られる、青春譚の短編8編が、一つの物語を成しているという、浅田次郎お手の物の洒落た小説だ。
青春の恋あり、過ぎ去る時代への懐古あり、そして人情物の泣かせ所も用意されているのだからあきることはない。
但し、題材的には単一な場面設定であり、著者の他の作品に見られるような、大きなストーリー展開がある訳ではないから、この程度の長さが適当と言えるかもしれない。
（00年8月発行）