成人病の真実 近藤誠 文芸春秋
中年を過ぎて定期健康診断なるもので、血糖値、肝機能検査、尿酸値、コレステロールといった項目のどれかでひっかかるのは今や当たり前といってもよい。その結果、生活習慣病と名をかえたいわゆる「成人病」の患者は、3000万人だとかいうとんでもない数字になってしまっている。言わば日本人の三人に一人とか四人に一人は「病人」ということになってしまうのだが、なんだかおかしくはないかと思わないではない。
しかも、病人と名指しされた本人には、自覚症状は一切ないのだから、本当に「病気」なのだろうかといぶかしく思ったとしても、医者からは「このままにしておくと大変ですよ」とおどかされて、恐怖にとらわれることになる。結局、えたいのしれない薬を飲み続け、病気の恐怖に心休まらない日々を送ることになる。そういう人たちが本書を読むと棍棒で殴られたような衝撃を受けるかもしれない。
曰く、ある程度血圧が高いのは体がそれを要求しているからであり、それを無理やり血圧降下剤で下げる方が余程危険であり、コレステロール値も然り、むしろ高い人の方が長生きしているとか、血糖値も基準値といわれる120mgという数字には、ほとんど根拠がないのだという。
このように成人病といわれるもののほとんどは本人が無症状であるものを、製薬会社と患者不足に悩む医学界が検査で無理やり「病人」にしてしまった結果なのだというのだ。
又、多くのポリープも「がん化」するとの恐怖をあたえられ手術してしまう人が多いが、実はポリープは何もしないでほおって置くのが一番良いとか、インフルエンザのワクチンは無用であるという主張には、それでは一体今まで自分が受けてきた治療は何であったのかと、まさに衝撃を受ける人は多いだろう。
著者は「患者よがんと戦うな」においても、「がん」と「がんもどき」を混同して行なわれる日本の過剰医療の有害性を指摘したが、本書でも多くの治療がほとんど無益であるにもかかわらず、「営利」のために行なわれているという実体を、多くの資料をもとにして告発している。
医者に言われた診断を鵜呑みにしてしまう我々素人にとっては、本書の主張が事実なのか知りたいところである。本書に対する医学界からの激しい反論があって然るべきだとは思うのだが、どうなっているのだろうか。
（02年8月発行）