我が青春の考古学 森浩一 新潮文庫
昭和3年生まれの著者が川遊びをしているうちに偶然、土器のかけらを拾ったのは、小学校5年生の時だった。それ以来著者の考古学への思いは募る一方で、日本が戦争へそして敗戦へと突き進むなかでの青春は、遺跡探訪と採掘の日々であった。
後に森・遺跡学として確立する著者の考古学の基礎は、この最初の10年間に育まれたものだ。博物館に陳列されている遺物や、机上での研究では全く捉えることのできない古代の人々の生活が、現地を訪れその土地を知り、それらの遺物が如何に発見されたかをつぶさに調査することによってこそ学問的な価値をもつという考古学へのアプローチの仕方は、今年のノーベル賞受賞の田中さんや、小柴教授も語っていたように実地を伴ってこそ始めて真実に到達できるという学問の王道ということなのだろう。
本書では考古学への尽きぬ興味をもった少年が、戦中、戦後の混乱の中で、如何に情熱的に遺跡探訪を続け、荒れ果てて破壊されようとする古墳を手弁当で緊急調査したかという青春の体験が語られているが、あたかもこれは青春の冒険譚の趣きさえある。
同志社を卒業するまでには、考古学界の学者同士の勢力争いに心ならずも巻き込まれてしまうようなこともあり、又、遺跡調査にはとても手の回らない行政の不作為になかされるようなこともあった。青年の純粋な考古学への情熱が、さまざまな困難にも突き当たって行くのだが、それをいかにして克服・凌駕していったのかという物語はノンフィクションとして興味深い。こういう部分では、最近起きた遺跡捏造事件とそれを取り巻く考古学会の熾烈な功名争いの淵源を見る思いがする。
それにしても、幼いときから自らの進む学問の道をはっきりと見定めて、一生それを追い求める著者のような学者像には、なんとも羨ましい思いがする。
（02年10月発行）