嵐が丘 エミリー・ブロンテ 新潮文庫
サマーセット・モームはこの「嵐が丘」を世界の１０大小説に掲げ、「リア王」「白鯨」とともに英語文学の３大悲劇の一つと絶賛している。150年余りの間、世界中の主に若い女性たち人気を得てきたこの小説が、あの頑固な英国人男性の典型のようなモームの賞賛を得ていることが実に面白いとおもう。
余りに強い愛が、愛の変形である憎しみとなり、悪霊となってまで永遠に燃えつきないという強烈な物語は、ちょっとまともなテンションでは付き合いきれないかもしれない。
この150年間に「嵐が丘」にはさまざまな批評がなされてきた。小説技法的にエミリー・ブロンテが生涯にただ一つ書いたこの小説を未熟とするものもあるが、それでもなお、名作として輝きつづけているのは、そういった技法に対する批判などを吹き飛ばしてしまう強烈なテンションだろう。
英国もヨークシャーのように北になると、その冬の日の短さと荒涼とした風景は、実に凄まじいものがある。
そのヨークシャーのムーア（荒野）に吹きすさぶ風の中に、たたずむ「嵐が丘」という館を中心に巻き起こる二代30年に亘る男女愛憎の物語。遠い昔、中学生の頃に一度読んで、ヒースクリフやキャサリンの強烈さに腹を立てたものだが、40年経って読み直してみると、その強烈さが何とも「面白い」と思えるのは、モーム先生の心境に少し近づいているからなのだろうか。
（88年2月発行）