三月は深き紅の淵を 恩田陸 講談社
著者は64年生まれの若手女流作家だ。この作品が書かれたのが97年というから彼女が33歳の時ということになるのだが、今どきの若い女性はこれほどエネルギッシュなのかと驚かされた。何しろその筆力の強さというか、書き方の迫力といったものをまず感じる。
おそらく、幼いときからの相当の読書量の裏付けがあるからなのだろうが、「三月は深き紅の淵を」という４部構成の幻の小説をめぐるストーリーが４部構成で書かれている。即ち、この物語自身が内側と外側に二つの「三月は深き紅の淵を」という物語を持っているというちょっと凝った構成になっている。
緻密に推敲を重ねたという気配は感じないものの、その複雑な構成の物語を勢いで書いていったのではないかと思える点、即ちエネルギッシュさにはまず感心させられる。
但し、やはり大作の少女マンガを読むようで、どうもこの手の分野にはあまり馴染めないのは、読んでいる内に疲れてしまうのは、こちらが歳をとった所為なのだろう。なにしろ作者とのジェンダーの違いと、やはり世代の違いがありすぎるからかもしれないが。
若手女流作家の小説の書き方というものがどうなっているのか想像もつかなかったが、この小説を読んでいるとパソコンに向かって猛烈な勢いで湧き出るストーリーを叩き込んでいる若き女性のイメージが浮かぶのだが実際はどうなのだろうか。
テーマとなっている「小説を読む」ということと「小説を書く」ということに対する作者なりの問題提起、掘り下げには納得できる部分は多かった。
（01年8月発行）