キリスト教 竹下節子 講談社選書
イスラエルを何度か訪れたことがある。ベツレヘムに行き、ここでイエスが生まれ、三人の博士が貢物を置いたのはこの石の上であるとか、ゴルゴタの丘へと続く十字架を担いでイエスが歩いたといわれるビア・ドロローサ（悲しみの道）をたどってみると、イエスという男は間違いなく2000年前にここに生きていたと確信できた。
そうなってくると信仰の対象としてではないが、歴史上の人物としてのイエスに大いに興味が湧いてきたものだ。さて、それではイエスとは一体どんな人間だったのだろうか。聖母マリアは一体何歳まで生きたのだろうか、死因は何だったのだろうかといったミステリー的な興味も尽きなかった。
何しろ、この男が起源となった宗教はその後2000年間、ヨーロッパを中心として世界の歴史を動かし、時を経た今日、10億の信者をもつ世界最大の宗教として絶大な影響を世界に及ぼしている。
イエスは卓越した新興宗教家だったのだろうか。キリスト教のどのような教義が2000年間も朽ちることなく人々に受け入れられてきたのだろうか。信仰心というオールマイティーカードを抜きにしてこういった疑問に答えてくれる研究書は少ないが、本書はそういった疑問にかなり的確に答えてくれている。
キリスト教はユダヤ教にその起源を持ち、イエスが加えた改革とその後に使徒達が補完した教義から発展したものだが、本書では旧約聖書、新約聖書の成立過程、内容から説き起こし、教義の概要、あるいはキリスト教の歴史を先ず詳細に解説してある。
キリスト教を発展させたその宗教哲学の大衆性、親しみやすい教義の解説という意味でも、「知の教科書」シリーズの中の本書は、充分答えている。
一神教のはずのキリスト教で天使やら悪魔やらは一体どのような存在と解釈されているのか、三位一体説とローマ法王の存在はどう結びついているのかといった点も、薀蓄物としても面白い。
宗教にのめり込むでもなく、かといって宗教を一方的にバカにするでもない著者のスタンスは、無信心者の自分にとっても受け入れ易いものだ。
（02年9月発行）