神、この人間的なもの なだいなだ 岩波新書
70歳を超えた二人の精神科医の対話形式で、宗教と神について論じられている。
二人は若き日に行った同じテーマの論議を、人生の終幕に近づいた今、再開する必要性を感じたというのだ。一人は、若き日の病苦から死を身近にとらえるなかでキリスト教信者となり、一人は無心論者を自認している。
しかし、二人の考え方は今やほとんど違いがないともいえる地点に到達している、それは一方のキリスト教徒にとっては、イエスという存在がますます人間的に見えるに到ってきているし、無心論者であった一人にとっては、宗教なり神という存在が、人間にとっては必要ではないかという考えに到ってきているからだ。
二人の対話は、世界三大宗教の始祖、ブッダ、イエス、モハメッドは間違いなく人間であって、それぞれが説き起こしたことがらは、その時代の人々の心の安定を求めたいという願望とマッチした結果であるということが語られる。
原理主義ではなくそれぞれの宗教の始祖が説いた「原点」に立ち返って宗教を考えるという「原点主義」に立ち、今一度宗教というものを捉えなおそうと二人は論議をするめる。原点主義から見れば、余りに肥大化してしまった現代の宗教は、その始祖たちが説いた宗教とは全く異なったものになってしまっていると二人は指摘するに至るのだが、この指摘は十分にうなずける。「キリスト自身はキリスト教徒ではなかった」という逆説で原点主義が語られるのだが、まさに、その通りと膝をうちたくなる。
又、精神医学と宗教の関係の指摘も面白い。精神病が病気とみなされるようになる以前は、精神病は悪魔の仕業とも考えられていたのだが、そのような考え方が、一神教を生むことになったのだと、その過程が語られているのだが、この点も何とも」興味深く読んだ。
（02年9月発行）