経済論戦は蘇る 竹森俊平 東洋経済
経済論戦なるものが意外と人気があるのは、結局のところこの種の論戦には、何時までたっても黒白がつかないし、偉そうな経済学者の理論が大ハズレする一方、素人でも勝手なことを言っていても、何となく格好がつくところにあるのかもしれない。
最近でも、小泉首相の掲げる「構造改革」なるものが一体何を目指しているのかを理解している人は本人を含めてそう多くないと思える一方、ああでもない、こうでもないの論議ばかりは、まさに百家争鳴の感がある。
例えば「構造改革」と「デフレ対策」は両立するものなのか、それとも相反するものなのか、あるいは「不良債権処理」を進めることが本当に「構造改革」に結びつくのか、それとも「不良債権処理」を進めると景気は取り返しのつかないほどに悪化するのかといった、経済運営にとって、全く基礎の基礎の部分でさえ正反対の意見が出され、全く収拾がつかない現象をみていると、経済論戦も演芸の一種なのかとさえ思えてくる。
経済という鵺のようなものを、まさに「群盲象をなでる」がごとく、愚にもつかない論争をしているということだろうか。
歴史的にも経済論争というものは、結局後追い講釈においてはなんとなく「こじつけ」が成り立ち得るが、現在あるいは将来の政策立案などには、ほとんどと言っていいほど役に立たなかったと言ったら言い過ぎだろうか。
まあ、そういったああでもないこうでもないの素材だけに、趣味的には経済論戦は確かに面白い。だからこそ、ウエグサさんやら、キムラさんやらの両極論が何時までも面白おかしく論戦としてマスコミでもてはやされることになるのだろう。
本書は大恐慌時のフィッシャーとシュンペーターの「不況」の意義をめぐる論戦から、現在の小泉改革をめぐる論戦までの、いわゆる経済論戦の解説だが、論戦の要点、経済用語の解説といった意味合い、あるいは、現在の論戦における、各経済評論家の主張の要点整理などが系統的に行われているから、例えば「サンデープロジェクト」などの、素人向け経済談義を聞くときの手引きにはなるのではないだろうか。
（02年10月発行）