標準 特許法 高林龍 有斐閣
法律とは全て人間が組み立てた論理体系であるから、本質的には合理的であり誰にでも理解し易いものであるはずだ。しかし、パーキンソンの法則ではないけれど、論理的、合理的でシンプルなはずの法律が、判例を重ね、様々な法解釈が積み重なって行くうちに、一般には理解しがたい難解な修辞学的なものに感じられるようになってしまうのは致し方ないことなのだろうか。
法律の素人にとって法律関係の文献を読むということは、どうしても、そのような魔物に挑戦するかのような意識を持たざるを得ないから本書を手にとった時もそのような身構えをしたのだが、読み通してみてその懸念は解消され、法律とはこんなに面白いものかと思えてきた。
ビジネスモデル特許が話題になったように、現在、知的財産権に関連する知識は、法律専門家ならずとも一般ビジネスマンにも必須のものとなりつつある。これを学ぼうとしても容易なものではないのだが、本書は裁判官として18年間にわたり主として知的財産権訴訟を扱い、現在早稲田大学で教鞭をとる著者が、「特許法」の講義レジュメに基づいて教科書的にまとめたもので、法律のもつ本来の明快さ、合理性、分かり易さをあらためて思いおこさせてくれ、特許法に関する入門知識を得ることができる。
巷にあるこの種の文献は、一方はいわゆる法解釈理論にのみ傾きすぎるきらいがありどうしても抽象論になりがちであり、方や、「特許のとり方」といった指南書のようなハウツーものは浅薄な手続き解説に傾きすぎているのだが、本書は理論的法律体系の解説の格調は高い上に、実践的な面も十分カバーしている。
全体の枠組みは、第一章「特許権の概要」および第二章「特許権侵害」において、特許権なる権利がどのようなものであるのかの俯瞰をし、第三章以降の八章までで、特許権の利用、取得手続、特許訴訟、権利侵害救済手続という実践面が説かれている。
用語解説、具体例も豊富であり、法学部学生のみならず、一般ビジネスマンの特許知識テキストとしても最適と思われる。
（02年12月発行）