漢字の社会史 阿辻哲次 PHP新書
文明が地域的な広がりと歴史をともなって伝承発展していくためには、文字が必要であった。幾つかの無文字文明も確かにあったが、それらが広がりと、永続性をたもてなかったことがそれを良く物語っている。
中国文明が現代においてもアジア圏に強い影響をもち、又、3000年以上に亘って世界の中心的文明でありつづけた理由は、この文明が漢字という文字を持っていたからだ。
本書では、文字がこのように文明に与えた影響から説き起こし、漢字を中心にした文字の発展史、そして漢字が中国そして日本を含む東アジア地区において、どのようにして形作られ、又、社会的、文化的にどのように影響を与えて来たかを述べたものだ。
漢字の特長である表意文字であることによる利便性ははかりしれないが、又、それは膨大な量の知識の蓄積を必要とするというデメリットを有する。未だに、中国においても日本においても漢字廃止論が繰返し唱えられる由縁である。
近年、ワープロの発達によってこの点の解消が図られるようになってきて、新たな漢字論議も起きているが、本書ではまさに漢字の起源から、漢字をとりまく現代的な問題点まで幅広くカバーされている。
（99年3月発行）