戦争倫理学 加藤尚武 ちくま書房
戦争倫理学という本書のタイトルからすれば、戦争合法論、戦争非合法論の論点やら、あるいは戦争のルールにおける二つの重要な規制、すなわち戦争目的規制と、戦争経過規制についての基礎的解説が行われるであろうことは容易に予測がつくし、それらの解説が他文献の引用がほとんどというやや手抜き的な方法ながら、しっかりと行われていることには不満はない。
但し、本書が客観的に、あるいは法理論的に戦争倫理学を語っているかの装いをもちながら、著者自身の戦争倫理観を述べる場であることにはいささか釈然としないものがある。
9.11のテロを戦争と見るか見ないかによって、アフガン攻撃の正当性論議は大きく変わってくるだろうし、イスラム原理主義テロや、北朝鮮の体制維持のための暴発を戦闘行為と見るのか見ないのかによって今の国際政治や、紛争処理に対する考え方は大きく違ってくるだろう。
しかし、著者は明らかに無差別戦争反対論という自らの価値観をオブラートにくるみ（ときどきはちらちらとみせながら）一般論的に戦争倫理を語っていることにはなんとも違和感を覚える。
今回のイラク戦争開戦時に、安保理における決議を必要とするかしないかで英米と仏露中の常任理事国でもめたのも、要は戦争開始の手続きにおいてもめたにすぎないのであって、戦争違法論と戦争合法論でもめたわけでもない。
又、本書における東京裁判におけるパール判事の見解についての論評も、確かにパール判事は日本に戦争責任がないといった訳ではなく連合国側にそれをさばく権利がないといったに過ぎないとの論によって、結局、東京裁判を認め、自虐史観に組するもののように読み取れることに、著者の主観が露骨に見えてしまい、論議の正否は以前にそういう手法に疑問をもつ。
ジャッジのユニホームを着て、プレイに参加するのはルール違反ではないだろうか。但し本書のタイトルを「私の戦争倫理観」あるいは「私の戦争観」とするのであれば、中々面白いとは思うが。
（03年1月発行）