質問する力 大前研一 文芸春秋
大前研一独特の「既にこのことは前著でも触れた」「何年前に私は言っていた」といった類の自慢話風なところがいかんなく発揮されており、「我が家の二人の息子は、こうやってちゃんと立派に育った」という親ばか的な自慢話になると、ちょっと臭わないではないけれど、やはり、この人のアイデアの斬新さには見るべきものがある。
本書では政府や、マスコミのいうことを鵜呑みにするのではなく、何事も疑問をもつこと、そして、自らが「本当にそうなのだろうか」と質問していくことが大切であるという、まあ、説教じみた話が続くけれど、後追い講釈とは言え、傾聴に値するものはある。
取り上げられている問題はかなり広範なもので、多少まとまりにかける嫌いはあるが、翻って考えれば「大前研一風思考」を知るという意味では、これでよいのかもしれない。
政府や金融機関が土地の値段は底打ちだと言って、一生懸命に住宅を売ろうとしていたときに「本当にそうか」という質問をする思考方法をとっておれば、逆資産価値で火の車になることもなかったのにといわれると、むかっ腹を立てる人もいるかもしれないが、それでも「私はちゃんと90何年かの著書で言っているではないか」といわれてしゅんとしてしまうかもしれない。
高速道路建設についての提言なり、年金改革についての斬新な提言は、その実現の可能性の低さはともかくとして、中々面白いし、「不良債権処理を進めて景気回復をはかる」という政策が欺瞞に満ちているという指摘なども、視点としては面白い。
冒頭にも述べた、ように「日本の教育は間違っているが、我が家は教育は成功した」といった自慢話部分とか、「中国成長神話」に妙に肩入れしている部分など、頷けない部分も多々あるものの、全体的に「面白い」ことは間違いない。
（03年3月発行）