阿修羅のごとく 向田邦子 文春文庫
なにしろ毒にも薬にもならないほんわかしたテレビドラマが溢れていた昭和50年代にこの向田邦子の「阿修羅のごとく」の浮気だ不倫だの騒動に、四姉妹が本音をぶつけて、怒鳴りあい、泣き叫ぶというドラマは相当に衝撃的であっただろう。
彼女の死後、既に２２年が経ち、今再び、この作品が文庫化され、あるいは舞台や映画で取り上げられて注目を浴びることになったのは、どういう理由からなのだろうか。
テレビドラマは所詮ウソっぽいものだし、どうしてもその作りのやすっぽさから好きになれない。この作品にしても良く考えてみれば、四姉妹それぞれのカップルと、その両親にこれだけ次々と、騒動が持ち上がるというのもおかしな気もするし、「だからどうだ」といってみればそれまでの題材のような気もするのだが、物語の筋立てはそれほどウソっぽくは思えないのは、やはり向田邦子のドラマ作家としての優れた手腕によるものなのだろうか。
年老いた父に愛人がいて、子供までいるらしいという疑惑についての相談に集まった四人姉妹。果たして母は父の不貞を知っているのだろうか。そんな物語のはじまりから、四人姉妹それぞれの阿修羅のような人生模様によってドラマが展開する。未亡人の長女は、妻子ある男と不倫中、一見幸せそうな次女は夫とその秘書の不倫に悩んでいる。恋愛に不器用な三女の更にもどかしい恋人、そして四女は売り出し中のボクサーと同棲しているのだがーーーと言った具合で、まあ、これでもかこれでもかの展開となるのだが、確かに、当時は相当な評判を呼んだであろうことは頷ける盛りだくさんの物語展開だ。
テレビドラマファンにとっては、あるいは向田邦子ファンにとってはなんとも魅力的な作品だろうことは推測できる。ただし、どうにもテレビドラマ嫌いなもので、彼女の随筆の読後感のように、もう一つ、別の彼女のテレビドラマ物を読んでみようという気にはなれなかった。
（99年1月発行）