人間臨終図巻Ⅱ 山田風太郎 徳間文庫
古今東西の著名人900人余りをその享年別にわけて、その臨終の様子を中心に人物評を行うというユニークなこころみだ。人々の死に行く様というものが、その人の死後の評価にいささかでも影響してしまうというのは、運命のいたずらでとは言え中々に残酷にも思えてくる。
そのような観点から、それぞれの著名人の死を捉え、山田風太郎流の独特の人物評が述べられるという本書の企みは、なんともユニークであり、また面白い。
この第Ⅱ巻には、享年56歳から72歳までの人物像が収められている。
先ず、第Ⅱ巻から読み始めたのは、自分の年代にもっとも近いところに興味があったからだ。15歳で死んだ八百屋お七にはじまり、50才までに死んだ人々が掲載されている第Ⅰ巻は、とりあえず自分は乗り越えてきた部分であるから、後で読めばよいやと思うし、かといって６６歳から上114才で亡くなった泉重千代までの第Ⅲ巻は、まだ、ちょっと先の話という訳だ。
政治評論家として脂の乗り切っていた絶頂期に、著名人を集めた「小説吉田学校」の出版記念会の夜、21歳の愛人といたホテルで腹上死した戸川猪佐武の例にみるように、死に対して全く準備もできていなかった、すなわち多少なりとも死に際を選べなかった人間の悲喜劇にこそ、むしろ山田風太郎の死を向かえた人間に対する愛情に満ちた視線を感じる。
山田風太郎が医学部出身であることから、死因に対して医学的な見地からの考察があたえられている点が、人の死とは極めてプライベートなものであるようでいて、実は、ベルトコンベア－で運ばれた先にあるもののように、乾いた全く無機質のものであるようにも思えてくる。
（01年4月発行）