バカの壁 養老孟司 新潮新書
オウム真理教の若者がサリンを撒いていながら、良いことをしたつもりでいたのは、一体どういう訳だろう。WTCに自爆テロを慣行し、あれだけ多くの人々と殺戮しながら、イスラムの教えに従った聖戦を行った気になっている原理主義者の思考は一体どうなっているのだろうか。
本書によれば、一神教的な一元論のもつ、「世の中は善もしくは悪」という考え方にこそその原因があるという。「世の中は善と悪とでは割り切れない複雑なものだ」という考え方が、宗教の教義によって全否定されてしまう。すなわち、これが「バカの壁」だという。
何も、宗教だけではない。世の中には、色々な意味での「バカの壁」が立ちはだかっていると著者は言う。
東大の解剖学教授であった著者による人間行動と脳に関する解説書だが、聞書きであるためか、話題は散漫になりがちで、しかも論理の一貫性にはいささか疑問もないではないが、個別には目からウロコの指摘も多い。
地球温暖化を、人為的な温暖化ガスにその原因を求める傾向に対し、温暖化という「事実」と「温暖化ガスの影響」という推論とを一元的に結びつけてしまう、すなわち、｢科学的事実｣と「科学的推論」を混同してしまう「バカの壁」についての指摘などは、「中々、いいこと言うね」と思った。
「話せばわかる」とはいうものの、世の中は「話してもわからない」バカばかりなのは何故かという疑問を持つ人は手にとってみても損はないかもしれない。
ただし、その内容を、余りまじめに受け入れてしまうのも、「バカの壁」なのかもしれないが。
（03年4月発行）