なめくじ艦隊 古今亭志ん生 ちくま文庫
明治23年生まれの志ん生の聞書き、本書「なめくじ艦隊」が刊行されたのは、昭和31年、彼が66歳の時だ。
曲がったことが大嫌いで、あけっぴろげな江戸っ子気質、幼いときから放蕩無頼の生活、度はずれた酒好き、赤貧洗うなどという生易しいものではない貧乏、と、何とも破天荒な古今亭志ん生が、自らを語れば、これが何とも、聞き飽きることのない落語になっている。
昭和の落語界を代表する名人志ん生は、高座に現れて、しばし何もしゃべりださなくても、客席にはもうなんとも言えない、くつろいだ雰囲気が漂ったのは、こういった志ん生の底抜けな生き方に対する、客席の共感、羨望といったものがあったからではないだろうか。
家賃を溜めすぎて次々に借家を追い出され、家賃がタダという長屋にころがりこんだのだが、家中をなめくじが這いまわり艦隊をなし、蚊柱が立つほどの蚊の多さに、蚊帳を吊った中で暮らしていた貧乏長屋暮らし、食べるものとてなく、ついには一握りの大豆を一家5人で分け合って噛み砕いていた、と、いった凄まじい貧乏を、実に、あっけらかんと語ってしまうのは、まさに、落語の名人ならではということだろう。
満州に行けば酒が飲めるとばかり渡った満州で、終戦まじかになり帰るに帰れず、乞食も同然で2年間、大陸を彷徨った話などは、何とも迫力に富んでいる。
（91年12月発行）