無芸大食大睡眠 阿佐田哲也 集英社
劣等生を任じている阿佐田哲也だけれど、かつてはマージャンで渡世を張ったこともあるという作家としてはこの上ない赫々たる履歴を持ち、趣味は広く、競輪を語らせれば名人ともいわれ、映画だ芝居だ相撲だといった庶民派娯楽に対する膨大な薀蓄を持ち、阿佐田哲也と色川武大という二つのペンネームを持つ流行作家である、等々という事実からすれば、劣等生どころか、超スーパーマンではないだろうか。
本エッセー集には、著者の交友関係を中心に様々な人がその題材として取り上げられているが、その範囲も実に広く、ここでも又、その超人ぶりにおどろかされる。
交友範囲は、作家、芸人、歌手、スポーツ選手、等々実に広く、有名人、無名人が入り乱れているのだが、これだけの人々の交流は、とても「劣等生」には不可能だと思わないではない。
これだけの人々と付き合い、遊び、そして幾つもの作品を書き続けた著者が「無芸大食大睡眠」といういささか反語的なタイトルでエッセーを書いていることには、何だか、ちょっと鼻白まないではない。「何時もの飲み屋に行くと、有名人の誰と誰が来ていた」とか、「著名人の誰某から、遊びの誘いがかっかってきたので出かけた」と言った類の話になると、阿佐田哲也のデカダンとはちょっと裏腹な、スノブぶりに嫌味を感じないではないが。
取り上げられている人物が、当然のことながらこの作品が書かれた昭和60年代に活躍した人たちばかりであるから、その点、何だか懐かしく思い出されて一興がある。
（88年3月発行）