戦後日本の論点 高澤秀次 ちくま新書
山本七平はイザヤ・ペンダサンの名前で論壇デビューを果たし、以後、二つのペンネームにより数多くの論考を示した。戦後日本の論壇での足跡は大きい。しかし、山本七平の論考は、決して難解なものではなく、その多くは「一下級将校のみた帝国陸軍」に代表されるように、自らの体験を下地とした分かり易いものであって、それが、彼の人気の秘密でもあったといえよう。
本書はその山本の論考、特に単行本化されていない論考のなかでも、天皇制についてのべた「現人神の創作者たち」（ペンダサン名の著作）を中心に分析することによって、山本が語ろうとした近代日本のアポリア（いきづまり）を浮かび上がらせようとしたものだが、しかし、分かり易い山本の論考を、こね回して却って分かり難くしてしまった感じがする。
山本の思想を解説しているように見えて、随所に山本の考えとはほとんど無関係に、著者の独断的価値観や歴史解釈が語られる。例えば、新宮という土地から、この地区出身の中上健次と山本を、そして大逆事件とその他もろもろの歴史的事件を、かなり強引にむすびつけるなど、どうも、独りよがりが強すぎる部分が気になる。
悪文といわれた小林秀雄の文章を妙に真似た無意味な修飾語の積重ねや、主述の分かり難いずるずると長いセンテンスなど、付き合って行くにはかなりの苦労がいる。
更には、論考といいながらやたらと括弧囲いの引用が多すぎて、「引用集」のようになってしまっているのも気になる。山本の思想に関して論考を加えるというのであれば、このようなやたらと多い引用をさけ、もう少し噛み砕いて、山本七平並みの分かり易い文章にして欲しかった。
（03年7月発行）