グルーム ジャン・ヴォートラン 文芸春秋
02年度の海外ミステリーのベストテンには入ったサイコホラー小説ということだが、海外ミステリーファン、しかもサイコホラー好きという、かなりマニアックな読者層には評判が高かったということのようだ。あまりそちらの方面に興味のない一般の読者にとっては、それほど面白い小説とは言えないかもしれない。
ハードボイルド調に、12歳の少年と美術学校教師の二重人格を持つハイムという主人公の妄想と、現実世界で起きる暴力と性が描き出され、多重構造を持った猟奇的な殺人事件複雑に絡み合って物語が展開し、おどろおどろしい世界を浮かび上がってくるという趣向だ。
しかし、海外ミステリーによくある、これでもかこれでもかといった猟奇性とか、複雑怪奇な幻想世界というものに左程興味がないせいか、折角のストーリーの盛り上げも、どうも紙芝居的なものを感じてのめり込めない。
猟奇殺人だサドだマゾというテーマが海外でかなり好まれているようだが、日本ではこの種のテーマは余り大衆性を持ち得ないというのは、民族性とか文化の違いによるものなのだろうか。
（02年1月発行）