秦の始皇帝 陳舜臣 文芸春秋
秦の始皇帝が中国を統一していなかったとしたら、現在の中国はヨーロッパのような形になっていたかもしれない。戦国時代の6国を統一した秦は、その6国の中でも辺境に位置した後進国でしかなかった。しかし、始皇帝の時代になって俄然、その勢力を増し、史上例を見ないほどの強国となって中華統一を果たした。
果たして統一とはどのようなものであったのだろうか。武力のみが統一を果たす手段であったわけではない。焚書によって文字を統一し、度量衡を統一し、そして厳しい法の統治による強力な中央集権体制を築いた。
まさに、それ以降2000年間の中国の形を作った稀代の英雄、秦の始皇帝の業績を、分かり易く説いた本書によって、読者は戦国時代そして秦漢時代の中国の壮大な歴史物語に触れることができるだろう。
始皇帝の死後、わずか2年で秦は滅びた。始皇帝の一代でなしとげた未曾有の大事業そのものに、あっけないほどの滅亡の原因があった。その滅亡の原因を反面教師とすることは、現代においてさえも政治とはいかにあるべきかを見ることにもつながっているように思う。
（03年8月発行）