桂枝雀のらくご案内 桂枝雀 ちくま文庫
落語の語り口は、志ん生のようなひょうひょうとしたものをよしとし、爆笑を誘うような「熱演」は、ちょっと下に見られるようなこともあったと思うが、枝雀はこの落語の「常識」をくつがえしたと言ってもよいだろう。
もっとも、熱演が落語としてぴったりはまったのは後にも先にも枝雀一人ということかもしれない。
枝雀のある種常軌を逸したかのような超熱演を見ていて、この人はどこかで破裂してしまうのではないかとさえ思ったこともあった。彼がうつ病で自殺したと聞いたときに、やはり、という気がしないではなかった。
本書は84年当時、枝雀がもちネタとしていた60の話しの一つ一つについて、どのようにその話を解釈し、それらを語るに当たって、どのように演じようと意図しているかなどを綴った枝雀流落語解説書である。
やぶれかぶれのように見えた枝雀の熱演が、実は緻密に研究され計算され尽くしていたことを知り、これだけ真面目に一つ一つの話しに取り組み、研究に研究を重ねていたとすれば、その重圧たるや相当なものであろうし、精神的にもかなりの負担があったのではと思う。そんな重圧が彼の死に結びついたのではと思わないではなかった。
芸を感じさせない芸という意味では、落語の奥は深いということなのだろう。これからは、落語も心して聞こう、――などと思った。
(96年12月発行)