わが英語今も旅の途中 阿川尚之 講談社
現代は様々なメディアを通じて日常的に英語が流れてくるし、国際化の名の下に外国人と接する機会は実に多い。しかし、ほんの少し前までは、まわりに英語をしゃべる人がいるわけでもない環境で育った日本人にとって、英語に慣れ親しむ、英語を学ぶ、ということは大変な努力を必要とした。言ってみれば、我々の世代にとって英語を学ぶということは、水もないところで水泳を覚えようとするようなものだった。
それだけに、つい最近まで（いや、今でもかなり）、日本人にとって英語をこうやって学んだとか、こういう努力をしたといった類の英語に関する苦労話は、同窓会での思い出話のようなものであり、それはそれで結構盛り上がるものだ。
英語を日常聞きなれていて、学ぶという意識もないままにしゃべれるようになるという欧州の人々からみれば、本書のような苦労話などは、奇異に感じられるかもしれないけれど。
著者は米国の弁護士資格を持つが、学生時代に留学、その後ソニー社員として海外でも活躍するなどその英語習得の思い出話、失敗談、自慢話は、多くの同世代人の思い出と共鳴するものがあるだろう。
アメリカで買物をしてお金を払ったら店員が「ワナベー」と言った。理解できないで困ったが、これは"Do You want a bag?" (袋にお入れしましょうか?) と聞いたのだーーーと言った類の、海外経験のある人なら一度や二度は身に覚えのある失敗話やら、留学時代の思い出の人々の話しが主の英語を題材にしたエッセーの趣だが、まあ、そこそこに面白いといえよう。
(98年6月発行)