食肉の帝王 溝口敦 講談社
BSE感染の疑いがある牛肉の大量買い上げという政府による業界保護のための税金ばら撒きがあった。そこにつけ込んで偽装不正を働いた雪印は会社が潰れ、日本ハムも相当な制裁を受けた。しかし、その日本ハムよりも大量の疑惑の買い上げを申請し、巨利を手にしながら、見事に証拠隠滅を行ったところがある。
本書が取り上げた「食肉の帝王」と言われるハンナングループの浅田満であるという。逆差別の典型であった被差別部落出身に対する、表と裏の優遇をことごとく利用し、山口組組長を「ナベちゃん」と呼べるほどに、暴力の世界にも隠然たる力をもつという、蔭の帝王にせまったこのルポは中々の迫力である。
浅田満は、鈴木宗男のスポンサーであり彼のことを「宗男」と呼び捨てにできる男だ。羽曳野市長も大田房江府知事も、浅田の屋敷に呼びつけられて不正の手先になっていたとも書かれており、いやはや大変な人物がいたものだと感心する。
同和と暴力と食肉のそれぞれの裏の部分を牛耳った男には、実に様々な疑惑がまとわり付いているが、その追求をかわし続ける彼の技量には舌を巻かざるを得ない。それも、政財官の表舞台を裏から動かすだけの力を彼が持っているからだと本書は指摘しているのだが、なんともその衝撃は大きい。
週刊誌に連載されたルポを単行本にまとめたのが本書だが、このルポ発表後も、浅田満とその周辺に捜査の網が及んだという話しも聞かない。果たして、今も、その疑惑を突くことは、官憲にとってのタブーということなのだろうか。
それにしても、これだけタブーの多い闇社会に迫るルポが書けるとは、著者のジャーナリスト魂には脱帽する。
（03年5月発行）