旧約聖書を知っていますか 阿刀田高 新潮社
日本の文化や歴史を知ろうとする外国人にとって、「竹取物語」や「浦島太郎」などのおとぎ話の基礎的な知識は、やはりあった方が良いだろう。
それと同じように、西欧文化をより深く理解しようとする日本人にとって、「旧約聖書」を知っておくことは、何かと役に立つといえよう。
とはいっても、旧約聖書はあくまでもキリスト教、ユダヤ教の聖典であって、宗教色を抜きにして解説されたものは少ない。宗教的なバイアスを感じないで済み、しかも、そのエッセンスだけを、簡潔に知りたいと思う人にとって本書はうってつけといえる。
天地創造、アダムとイブ、モーゼの十戒、ノアの箱舟から、サムソンとデリラ、ヨブの苦難、魚に呑まれたヨナの話、等久、聞いたことはあるけれどといった旧約聖書の様々なエピソードが、ストーリーテラー阿刀田高の手によって、面白い読み物になっている。
単なる、旧約聖書のダイジェストではなく、自らの経験や見解を含め、時には脱線しながら進む軽妙なエッセーという面でも、楽しく読める。
こう言った旧約聖書の内容を一通り知ることは、西欧文化の理解にとって何かと参考になることだろう。
もっとも、宗教心のない身にしてみればお話としては面白い聖書だけれど、我がまま放題で、嫉妬心の深い神様や、科学的な観点からみたら全く噴飯物の様々なエピソードなどを、「聖書」として有り難がっている人たちのことが、どうにも理解できないという思いに駆られてしまうのだが。
（94年12月発行）